「全てのクリニックが知るべき、雇用時の経営リスク」
近年、美容クリニックの現場では、SNSトラブルや就業ルールの不備によるスタッフと経営層のトラブルが増加しています。特に入職・退職時のSNSの権利関係や、競業避止義務の曖昧さが、経営者の大きな悩みとなっています。
本コラムは、美容医療に特化した弁護士であり、現在は株式会社SSFホールディングス取締役CLOを務める新城安太氏の監修のもと、現場で実際に起きているリスクとその対策を整理・解説。
クリニック経営者が「後悔しない雇用」を実現するために、美容クリニックが今押さえておくべき法務リスクとその対策を解説します。
1.SNS・症例写真の権利トラブルを防ぐ
美容クリニックではSNSを活用した情報発信や集患が一般的になっています。
しかし、SNSアカウントや症例写真の管理を巡ってトラブルが発生するケースが増加しています。これらの問題を未然に防ぐためには、入職時に明確な取り決めを行うことが重要です。
SNSアカウントの所有権の明確化
医師が個人のSNSアカウントで症例写真やクリニックの情報を発信している場合、退職時にアカウントの権利関係でトラブルになることがあります。
そのため、入職時に以下の点について取り決めをしておくことで、後のトラブル防止につながります。
- SNSアカウントの所有権は誰にあるのか
- アカウントの運用権限や管理責任者は誰か
- 退職時のアカウントの取り扱い方法
2.就業規則の未整備が招くリスク
従業員10人未満の会社は、労働基準法上就業規則の作成義務はありません。しかし、就業規則が未整備であることでトラブルを招く可能性があります。
懲戒解雇の実施が困難になる
特に問題になるのが解雇時の対応。
従業員が横領や備品の窃盗など、重大な問題を起こした場合でも、就業規則に懲戒解雇の規定がないと、解雇が難しくなってしまう可能性があります。
就業規則に明記されていないと法的に不利になる可能性があります。
小規模クリニックにおいても就業規則を整備し、明確なルールを設けることが重要です。
3.競業避止義務の適切な設定
医師の独立に備えるため、競業避止義務のルール整備は不可欠です。しかし、過度な制限は法的に無効と判断されるリスクがあります。
適切な競業避止義務を設定するためには、以下の点を考慮することが求められます。
科目の違いを考慮する
異なる診療科(例:美容皮膚科と豊胸外科)では、提供する医療サービスや患者層が異なるため、直接的な競合とは言えません。
そのため、専門科の違いを考慮し、競業避止義務の対象業務を明確に限定することが重要です。
エリアの特性を踏まえる
都市部と地方では、患者の流動性や医療機関の密集度が異なります。実際の営業活動範囲や主要患者の所在地を考慮し、合理的な地理的範囲を設定することが求められます。
従業員の地位や職務内容を考慮する
院長や管理職など、経営戦略や顧客情報にアクセスできる立場の従業員に対しては、競業避止義務を課す合理性が高いとされています。
一方、非常勤医師やアルバイトスタッフなど、機密情報へのアクセスが限定的な従業員に対しては、競業避止義務を課すことが難しい場合があります。
これらのポイントを踏まえ、競業避止義務を適切に設定することで、利益を守りつつ、従業員の権利も尊重することが可能です。
美容医療専門の弁護士へ早期相談を
美容医療は他業界とは異なるルールが多く、法務対応にも専門知識が求められます。
自由診療と保険診療の違い、集患手法、広告規制など、美容医療に精通した専門家への相談がトラブル回避の近道となります。







