「集患」や「人材確保」など、クリニック経営の悩みは尽きません。中でも、ドクターへの報酬支払いは、複雑な法律が絡むため特に注意が必要です。
「業務委託」という言葉の利便性に惹かれ、安易に契約を結んでしまうと、後々取り返しのつかないトラブルに発展する可能性があります。
本コラムは、美容医療に特化した弁護士であり、現在は株式会社SSFホールディングス取締役CLOを務める新城安太氏の監修のもと、ドクターへの報酬支払いに潜む法的リスクとその対策をわかりやすく解説します。
1. 雇用か、業務委託か?境界線が曖昧な報酬トラブル
クリニック経営者の皆様は、このような疑問を持ったことはありませんか?
「業務委託契約でドクターに給与を支払いたいけど、大丈夫?」 「経費削減のために、一部を業務委託にできないか?」
多くのクリニックで、ドクター側からも「業務委託にすれば経費が使える」といった声が上がるため、こうした契約形態は一般的に行われていると思われがちです。しかし、そこには以下の3つの法律が複雑に絡み合い、大きなリスクを生じさせています。
2. 3つの法律が絡む「偽装請負」のリスク
① 医療法|医療行為は外部委託できない
厚生労働省の通達によると、「診療業務」や「医療行為」にあたる業務は外部への委託ができません。
たとえば、ドクターの診療業務に対して「給与」と「業務委託報酬」を混在させて支払う場合、業務委託分の報酬が実態として医療行為に対するものであれば、医療法に抵触する可能性があります。
② 税法|節税メリットがリスクに変わる
業務委託契約は、クリニック側が社会保険料の負担を抑え、報酬を「外注費」として経費計上できるというメリットがあります。ドクター側も「事業所得」となり、経費を計上できるため、双方にメリットがあるように見えます。
しかし、これらのメリットは**「業務委託の実態」が伴っている場合に限られます。**実態が雇用と変わらないにもかかわらず、形式上業務委託とすることで税務調査が入った場合、否認され、追徴課税の対象となるリスクがあります。
③ 労働基準法|残業代や解雇規制が適用される
「偽装業務委託」と判断された場合、労働基準法が適用されるリスクが生じます。
労働基準法は労働者の労働条件を定めた法律であり、労働時間の上限や割増賃金(残業代、深夜・休日手当)、解雇の規制などが適用されます。契約上は「業務委託」でも、実態が「雇用」と見なされると、未払いの残業代を請求されたり、安易に契約解除(解雇)ができなくなったりするなど、深刻な法的トラブルに発展する可能性があります。
3. 業務委託を正しく活用するための注意点
では、業務委託契約を締結する際は、どのような点に注意すべきでしょうか。
最も重要なのは、**「医療行為以外の業務を委託すること」**です。例えば、以下のような業務であれば、業務委託契約として成立する可能性があります。
- SNS・マーケティング活動: ドクター個人のSNSアカウントでの集患活動など。
- 経営コンサルティング業務: 経営会議への参加や運営改善に関する助言など。
これらの業務を委託する際は、「何に対して報酬を支払うのか」を明確にし、具体的な成果物や活動履歴(議事録、投稿内容など)を必ず記録に残しておくことが、トラブル回避の鍵となります。
最後に
ドクターへの報酬支払い問題は、医療法、税法、労働基準法の3つの観点から多角的な検討が必要です。安易な自己判断は避け、専門家への相談を強くお勧めします。
「自分のクリニックは大丈夫か?」「これから業務委託契約を結びたいがどうすればいいか?」といったご不安があれば、ぜひ一度、弊社の専門家にご相談ください。







